空降るでいず

じゆうな いろで えがいて みよう

君は「天気の子」を観たか

※相当ネタバレかもしれないので、観てない人は気をつけてね(じゃあこんなタイトル付けるな)

※というか長いので最後まで読む人いないだろう(といつものように高をくくる)

 昨日の夜にイオンシネマで「天気の子」を観てきた。「君の名は。」も初日夜の上映を観ていて、当時は広い劇場にガラガラの人数(15〜20人くらい)でとても快適だったんだけど、今回はイオンシネマの小サイズ劇場がほぼ満席。1作当たればえらいもんですなあ。

昨日観た時点での第一印象は以下の通り。

 賛否両論あると言われている本作。個人的にはどっちかと言えば間違いなく「否」の方なんだけど、だんだんこれはこれで思い切ったことをしてきたなと思い始めている。

もしや新海誠版「ポニョ」なのでは

 「崖の上のポニョ」がヒットしたときにネットのどこかで観た感想で、こんな趣旨のものがあった。「宮崎駿作品は "世界のあちら側" や境目へ行って最終的に "世界のこちら側" に戻ってくるものが多いが、ポニョは初めて明確に "あちら側" へ行ってしまう作品である」と。他の作品では最後に元通りに収まるか元通りでなくてもそこそこ丸く収まるのに対して、宗介は世界のバランスを変えてでもポニョと一緒にいることをあっさり選んでいたし、その後地上に出てきても風景は物語序盤とは様変わりしたままだった。

 それを新海誠作品に当てはめてみると(といってもそんな大げさな世界観設定の作品が多いかと言えばあれだけど)、「ほしのこえ」は別として「雲のむこう、約束の場所」ではしっかり塔を壊してバッチリ帰ってきている(という風に見える)し、星を追う子どもでも一応帰っては来たし、「君の名は。」でもちゃんと日常が戻っている。

 では「天気の子」はというと... 

 あれは行っちゃってるよなあ。行っちゃってるというか、昔からありがちな「世界を選ぶか彼女を選ぶか」みたいな2択で彼女を選んで結局世界がえらいことになるというアレだ。大抵の作品は彼女を選んだところで上手いこと奇跡が起きて世界もなんとかなるんだけど、この作品ではならなかった。しかも有働さんの「ナレ死」の如く、新海作品お馴染みのモノローグでサクッと変えてしまったところで少し笑ってしまった。

 とはいえ、とはいえだ。「君の名は。」はあれだけヒットしたせいか批判も相当多かったみたい。なにくその精神で作ったのが今作だとすると、ちょっとやり過ぎな気もするけどこれはこれで良かったんじゃないかという気もする。映画そのものが決意表明というか周りに迎合はしませんという姿勢で一貫していると思えば、「そうだね」と優しく笑って済ませられる、かな。

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 主人公のならず者度が作中どんどん上がっていくし、物語終盤であんな扱いになってる主人公なんて久しぶりに見た。それでも叶えたいことに向かって(大暴れでも)向かっていく姿は見せていたし、度が過ぎているにしてもメッセージとしては良かったんじゃないかな。

 「あちら側」で終わらせてしまう作品を作るにはまだ早すぎる気がするけど、この数年で生活激変だったからね。仕方ないね。

 その結果「ハイスクール・フリート」(はいふり)の世界に片足突っ込むとは思わなかったけど...。

大量のスポンサーからたくさんお金を出してもらってそれはないだろうという気持ち

 正直言うと最初の20分くらいが辛かった。なかなか本題に入らない。これは「星を追う子ども」の時にも思っていて、当時は「異世界ものなのになかなか異世界に行かない」、今回は「陽菜さんに会って天気が晴れるまでが長い」。つまり主人公の背景やら世界の伏線やらに時間かけすぎ。自分は15分ほどの時に時計を見て時間を計ったけども、その後左にいたお兄さんも右のお姉さんも時計を一瞬見ていた。みんなして時計を気にすることはなかなかない。

 今回はそれに加えて、新宿の風景が無駄にリアルなのがしんどかった。「新海誠の描く東京は綺麗な部分ばかり」とでも言われて気にしたのか知らないけれど、かなり雑然とした風景を中心に描いていたように思うし、何より出てくる商品やら店やらの大半が実在の企業のもので主張が強すぎる。タイバニなんて目じゃないレベルで。

 アニメに出てくる風景ってのは「君の名は。」でもそうだけど架空のロゴでさらっと描かれているだけだし、そもそもロゴを省略して描いていることが大半。風景をどれだけ書き込んでいたとしてもあっさり目の雰囲気になることが多い。風景があくまで風景に徹することでキャラクターが引き立つし、目も疲れない。それに周辺があやふやなことでフィクションというか、学園ものであったとしても現実から一足離れてファンタジー色が出るから良いんだよ(今回初めて気づいた)。

 今回どれだけ出てきたことか。日清食品マクドナルド、サントリーYahoo!、(あの求人の)バニラ、湖池屋、などなど...。日清に至ってはどん兵衛食べてるシーンでどん兵衛のCM曲がさりげなく流れるなどあくが強すぎる。陽菜さんが作っていたチキンラーメン湖池屋のポテトチップスのりしおをうまいこと料理するシーンは美味しそうだったけど(あのシーンは絶賛したいし何度でも見たい)、正直あのシーンだけでお腹いっぱい。あれ以上は見る側がしんどい。

 と書くとスポンサー各社を悪く書いていると思うでしょう?これが後半段々不安になってくる。スタッフはあらすじをちゃんと各社に説明したんだろうか。

 とくにマクドナルド。冒頭で陽菜さんがマクドでバイトしてたけど、あれはいいのか?作中では結果的に騙される側になってたかもしれないよ、でも騙される側であったとしてもあれはコンプライアンスの面でまずいんじゃないの?あの設定は織り込み済みでOKもらったの?

 アニメなんぞに現実の物差しを当てはめてどうすんのと思われるかもしれないけれど、フィクションの土台に随分と入り込んでいるのでついつい気になってしまう。話が進むにつれてお尋ね者の飯がスポンサープロダクトという状態になっていくし、せっかく大金出して店なり商品を出してもらったのに使いどころがこれでいいのか。

 今作はゴールデンタイムの地上波放送がいけるのかどうか微妙なのではないかと思う。仮に放映することになってもスポンサーが数社降りて競合が手を上げようものならうまいことカットしないと進まないし、マクドナルドが難色を示した場合が特に大変。深夜かBSでの放送なら全然平気でもそれで利かない額が動いてそうなのが怖いね。

 というか、監督本人がやりたいこととお金の集まりように乖離がありすぎて監督や製作サイドはだいぶ苦労したんじゃないかと思う。元々監督はCMとかのプロモーション用アニメで食ってきた人なので平気でどんどん企業ロゴでも何でも出せるんだろうけど、それが徒になっているというか過食気味というか、前半で出すだけ出してあとでひっくり返すみたいな構成になってしまったのがちょっと残念。

次は傑作が生まれる予感

 「天気の子」上映中の劇場内の雰囲気は東映伝説の映画「ポッピンQ」に近かった。どんどん盛り上がる映画に対してついていけない観客の構図に再び触れる日が来るとは。

tsukuisu.hatenablog.com


 だけどこういう映画の後の新海誠監督は強い(はず)。気合いを入れて作った「星を追う子ども」の後に規模を縮めて「言の葉の庭」を送り出したように、中編か長編かは分からないけれども風呂敷を広げすぎずコンパクトにまとまった作品を作ってくれる(はず)。「君の名は。」の熱狂のまま見た人は多少解散するだろうし、以前から知ってる人はこんなもんだろうと同じように評してくれるだろうし、スポンサーからお金と期待が湧いて出る環境から少しは離れるだろうから、新海監督の良さがもっと自然に出る作品が出てくると思うよ。

 というか、「天気の子」も大量のスポンサーを抱えず「言の葉の庭」くらいの尺だったら賛否とか言わず相当良かったんじゃないかなぁ。「君の名は。」の次だからこそ生まれた作品だけど、「君の名は。」の次だったために微妙になってしまったとも思う。

というわけで

 「天気の子」に「君の名は。」の2人(+2人)もさらっと出てきたし、「君の名は。」にも「言の葉の庭」の先生が出てきたし。

つまり言の葉の庭はいふり。いいね?